額縁は脇役に徹してこそ絵画も浮かばれる

現存する名画が収められている額縁の皆がみな最初からその絵とセットであったわけではありません。むしろ後から付け替えられたものがほとんどと言ってもいいかもしれません。そのために起こるミスマッチがよく見受けられるといわれています。例えば、ロンドンにあるナショナルギャラリー所蔵のHenri-Joseph Harpignies(アンリ・J・アルピニー)作の「River and Hills(河と丘)」を収めた額縁。おそらく画商が後からつけたとされるもので、のどかな風景画には何とも似つかわしくない仰々しいばかりの立派な額縁に収められています。この額縁自体はそれはそれで由緒あるもので、おそらく17世紀中期のフランス彫刻の流れを汲むものとみられ、コンポ(油性の固い合成物)でかたどりされた18世紀初期フランスに導入された技法を使い更に当時普及していたガラス入りのベースに金粉処理された枠を加えた手の込んだものです。画商の何とか高額で売りたいという気持ちは伝わってきますが、プロなら絵画とのトータル的な価値を高める方向に留意すべきではなかったのではと、惜しまれてなりません。当の画家がそれを見てなんと言うか聞きたくなるような組み合わせと言っていいかもしれません。このようなミスマッチは、額縁の起源とも言われる画枠では、ほとんどが最初から一体で作られ利用な時代では考えられないことだったでしょう。絵を絵板と呼ばれる木から現在つかわれているキャンバスへ置き換えられていった事情はあるにせよ、額縁はあくまで脇役に徹してこそ主役の絵画も浮かばれると考えるのは額縁に精魂込めて製作している芸術家には申し訳ない気もしますが、きっとその辺の事情はわかってくれるものと信じたいところです。

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